フランスとアメリカの政治的意見が対立するたびに、ニューヨーク港にそびえる自由の女神像が論争の的となる。
フランスがかつてアメリカとの友好の証として贈ったこの像は、今ではイデオロギー闘争の象徴ともなっている。
今回、自由の女神像の「返還」を求めたのは、欧州議会のフランス議員ラファエル・グルクスマンだった。
彼はウクライナ支援の強力な支持者として知られており、ロシア・ウクライナ戦争に対するトランプ大統領の姿勢を「暴君に味方するものだ」と厳しく批判した。
グルクスマンは「アメリカはもはや自由の女神像が象徴する価値を体現していない」と述べ、パリで開かれた自身の政治団体「公衆広場(Place Publique)」の集会で、アメリカに対し「自由の女神像を返還せよ」と訴えた。
彼の発言は、1500人の支持者から拍手喝采を浴び、瞬く間にメディアの注目を集めた。
彼は「アメリカがこの像の理念を無視し続けるなら、フランスが象徴的に取り戻すべきだ」と主張した。
これに対し、ホワイトハウスの報道官カロライン・レヴィットは即座に反論し、「自由の女神像をフランスに返還することは絶対にない」と明言。
さらに、「もし第二次世界大戦でアメリカの支援がなければ、フランスは今頃ドイツ語を話していただろう。
彼らは感謝すべきだ」と述べた。
グルクスマンについても「無名の政治家にすぎない」と一蹴した。
しかし、このやり取りはトランプ政権下での米欧関係の溝を浮き彫りにした。
グルクスマンの怒りの根源は、トランプが突如としてウクライナへの軍事支援を打ち切ったことにある。
この決定は多くの欧州諸国を激怒させた。
彼の「自由の女神像返還要求」は、実際の返還を求めたものではなく、象徴的な抗議としての意味を持つものだった。
しかしフランス国内では大きな反響を呼び、一部のネットユーザーは「次はルイジアナ買収の代金も返還請求するのか?」と皮肉った。
また、「衝撃的な発言を受け、トランプが自由の女神像をヘリコプターで撤去した」というジョークもSNSで拡散された。
とはいえ、グルクスマンの主張が全くの戯言であるとは言い切れない。
自由の女神像は、もともとフランスで誕生したものだ。
彫刻家オーギュスト・バルトルディが設計し、エッフェル塔を手掛けたギュスターヴ・エッフェルが内部構造を設計したこの像は、パリで建造された後、大西洋を渡るために350のパーツに分解され、1886年にアメリカへ贈られた。
アメリカ独立100周年を記念し、米仏友好の証として贈られたこの像は、今や自由と民主主義の象徴として世界的に知られている。
しかしグルクスマンは、「自由の理念は国を超えて共有されるべきものだ」とし、「この像はアメリカだけのものではない」と訴えた。
彼のスピーチはまた、トランプによる連邦研究資金の削減や、気候・医療研究者の解雇政策にも及び、彼はこれを「反知性主義」と批判した。
そして、欧州全体が「トランプ、プーチン、ルペンという極右勢力に対抗するための民主的抵抗運動を始めるべきだ」と呼びかけた。
自由の女神像を本当にフランスに「返還」することは非現実的な話だが、この議論はアメリカの国際的立場の変化に対する欧州の懸念を象徴している。
トランプ政権の外交政策は、米欧関係に深刻な影響を及ぼしている。
もしアメリカがもはや自由の灯火を掲げる気がないのなら、それを引き継ぐのは果たして誰なのか?
グルクスマンの発言は、一部では「政治的パフォーマンス」と揶揄されたが、自由、民主主義、国際関係を巡る議論を再燃させた。
彼の警鐘がフランス国内にとどまるのか、それとも国際的な動きへと発展するのかは、今後の展開を待つばかりだ。
しかし、自由の女神像の持つ象徴的な価値が今もなお世界に影響を与えていることは確かである。