米国情報機関は3月25日、『2025年版年次脅威評価報告書(Annual Threat Assessment, ATA)』を公表し、米国の国益と市民生活に対する深刻な脅威を警告した。
報告書は、テロ、サイバー攻撃、越境犯罪などの継続的リスクに加え、中国やロシア、イラン、北朝鮮といった国家主体による地政学的挑戦を強調している。
中でも注目されるのが、中国が台湾への圧力を強化している点である。
報告書によれば、中国は2025年にかけて台湾への外交的孤立政策と軍事的威嚇をさらに進め、長年の統一目標を達成する姿勢を鮮明にする見通しだ。
平和的統一を呼びかけつつも、武力行使の可能性を排除せず、台湾支持を続ける米国を牽制している。
仮に台湾海峡で軍事衝突が発生した場合、米国が直接関与しなくとも、世界貿易や半導体供給網に深刻な影響が及ぶと報告書は警鐘を鳴らす。
中国は台湾が独立へと向かう兆しを見せた場合、関税優遇の撤廃や輸入制限、恣意的な規制の導入など、経済的な報復措置を取る可能性があるという。
台湾の国際的な地位も脅かされている。
2016年以降、台湾と外交関係を持つ国は22か国から12か国へと減少し、残る国々との関係も不安定とされる。
軍事面では、中国人民解放軍が台湾周辺での演習を活発化させ、上陸作戦能力の強化も進めている。
台湾問題にとどまらず、中国の南シナ海および東シナ海での行動も緊張を高めている。
2024年には中国の海洋戦略によってフィリピンが一部の係争海域で実効支配を失い、交渉を余儀なくされた。
フィリピン側は主権主張を堅持する構えで、衝突リスクは依然高い。
また、尖閣諸島を巡る日本との対立も再燃の兆しを見せており、近年は中国公船の接近が常態化。
自衛隊の警戒監視活動が続いている。
さらに報告書は、ロシア、イラン、北朝鮮、中国の4か国が協調を強め、貿易や金融、安全保障の分野で米国に対抗する代替システムの構築を進めている点を指摘している。
これらの国々の結束が深まることで、第三国がどちらの陣営に加わるかを選択せざるを得ない状況が生まれる可能性がある。
また、非国家主体の脅威も依然深刻であり、テロ組織や麻薬カルテルは米国市民の安全を直接脅かしている。
2024年10月までの1年間で、合成オピオイドによる死亡者は5万2千人を超え、不法移民の流入は約300万人に達した。
これらの非国家勢力には、中国やインドから薬物前駆体や装備の供給が行われていると報告書は述べている。
今回の報告書は、複数の情報機関、政府部門、外部専門家の協力を得て作成されたものであり、議会や国民に対して世界的なリスクの全貌を客観的に提示することを目的としている。
情報機関は、多層的かつ複雑な脅威環境の中で、米国の安全保障戦略の再構築が急務であると結論づけている。