ロシアのプーチン大統領は、アメリカのトランプ大統領との約2時間に及ぶ電話会談の後、エネルギー基盤施設に対する攻撃を30日間停止する意向を示した。
しかし、前線1100キロメートルにわたる戦闘は継続される。
専門家たちは、プーチンが外交巧者としての手腕を発揮し、自国の製油所の安全を確保する一方で、ほとんど譲歩することなくトランプに“意味のない勝利”を与え、ウクライナの立場をますます脆弱にしたと指摘する。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカからの強い圧力の下で30日間の全面停戦に応じる意思を示したが、プーチンはエネルギー施設に限定した停戦しか認めなかった。
モスクワとワシントンの発表内容には食い違いがあり、クレムリンは「エネルギー基盤施設」に限定した表現を使用したのに対し、ホワイトハウスは当初「エネルギーおよびインフラ」の停戦合意がなされたと主張していた。
この食い違いから、多くの外交アナリストは「プーチンがトランプより一枚上手だった」と結論づけている。
元NATOおよびロシア駐在アメリカ大使であり、現在は大西洋評議会の上級研究員であるアレクサンダー・ヴァーシュボウ氏は、ウクライナの無人機攻撃能力が向上している現在、地域限定の停戦はロシアにとって有利であると指摘する。
実際、今回の会談は、ウクライナがモスクワ最大の製油所を破壊する無人機攻撃を実施した数日後に行われた。
この攻撃は、首都モスクワの燃料供給の50%を脅かし、ウクライナの戦略的能力が強化されていることを示すものだった。
ゼレンスキー政権が無条件の全面停戦を受け入れたのに対し、プーチンはエネルギー施設のみの限定的な停止にとどまり、その交渉力の強さを見せつけた。
トランプはウクライナに譲歩を迫ったが、プーチンに対してはほとんど影響力を持たなかった。
西側やウクライナの専門家は、今回の合意でプーチンが得た主な戦略的勝利として以下の3点を挙げている:
1. エネルギーインフラの保護:
大西洋評議会のオルガ・ハコワ氏は、この一時的な停止によってウクライナのエネルギー産業に一時的な休息がもたらされるとしつつも、最終的にはロシアがより多くの利益を得ることになると語る。
2. 国際的な対話の場への回帰:
カーネギー国際平和財団のタチアナ・スタノヴァヤ氏は、「今回の成果は、米ロが対等な立場で対話するという事実の確立にある」と指摘し、プーチンが国際的孤立から脱却し、より広範な外交交渉に参加する口実を得たとする。
3. 時間稼ぎの戦術:
ウクライナの政治アナリスト、ヴァディム・デニセンコ氏は、「プーチンは予想通り“時間稼ぎ”をしており、トランプはその戦術に巻き込まれた」と述べた。
一方で、ロシアの強硬な要求は一切変わっておらず、外交接触にもかかわらず以下の要求が堅持されている:
- 領土の併合承認:
ロシアは、違法に併合したウクライナ領土の約20%(一部は未だ完全支配されていない)を正式に認めるよう引き続き要求している。
- 非軍事化の要求:
プーチンは、外国からの軍事支援と情報提供の完全停止を和平の条件として提示しており、これはウクライナにとって事実上の降伏を意味する。
大西洋評議会のピーター・ディキンソン氏は「プーチンにとっての平和とは、ウクライナが完全に武装解除され、彼の支配下に置かれることだ」と語っている。
専門家たちは、トランプがこのような“表面的な進展”を受け入れた理由として、就任から100日以内にウクライナ戦争で成果を示すという政権の約束や、外交的勝利をアピールする必要性があったと分析する。
ホワイトハウスの発表も、ウクライナだけでなく中東やイラン、米ロ関係といった“よりグローバルな協力”に焦点を移しており、トランプがウクライナ問題にこだわらない可能性も示唆している。
ヴァーシュボウ氏は、「プーチンはトランプに対して“ノー”と言いたくなかったのだろうが、結果的にそれは拒否と同義だった」と総括した。
スタノヴァヤ氏も、「今回の停戦は最終的に膠着状態に陥る可能性が高く、ローカルなプロジェクト以外には何の進展もないだろう」と警告する。
CSISの分析官も、プーチンがエネルギー施設攻撃の停止といった表面的な成果をちらつかせながら、交渉を無期限に引き延ばす可能性が高いと指摘している。
表面上はトランプの“勝利”に見える今回の合意も、実態としてはクレムリンが巧みに演出した政治的演目に過ぎない可能性が高い。